• 古典に学ぶ
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忘れる功徳 その1

宋の国は陽里に住む華子という男、中年のころから物忘れがひどくなった。 朝うけとったのを夕方には、忘れ、夕方人にやったのを朝には忘れる。 外出しては歩くのを忘れ、家にいる時は坐るのを忘れてしまう。今は前のことが思い出せず、あとでは今のことが思い出せない。 家の物は弱りはてた。易者にみてもらってもわからない。巫に祈祷してもらっても効きめがない。医者にみてもらってもなおらない。
(参考:奥平卓・大村益夫訳「老子・列子」):徳間書店

忘れる功徳 その2

そこへ魯の国の儒者が、なおしてやろうと申しでてきた。華子の妻子は財産を半分さしあげても、と治療を頼んだ。 「この病気は、占いなどではどうにもならぬ。薬や祈祷でも同じことじゃ。ひとつ、ご主人の心を変えて進ぜよう。 きっとなおるにちがいない」。儒者は、こういって、まず男を裸にしてみた。すると男は着物をほしがった。 食い物をやらずにおくと、食い物をほしがった。暗いなかにとじこめておくと、明るいところへ出たがった。
(参考:奥平卓・大村益夫訳「老子・列子」):徳間書店