• 古典に学ぶ
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忘れる功徳 その3

儒者は得々として、その男の息子にいった。「この病気はきっとなおりますぞ。だが、このやり方は門外不出の秘伝じゃ。 ほかの人を遠ざけ、七日のあいだ、ご主人とふたりだけにしておいてもらいたい。家人のいわれるとおりにした。 さて儒者がどう治療したものか、七日たつと長年の病気がいっぺんになおってしまった。
(参考:奥平卓・大村益夫訳「老子・列子」):徳間書店

忘れる功徳 その4

ところが、正気に返った華子は、ひどく腹をたてた。妻をたたきだし子供を叱り、はては剣をとって儒者をおいかけるしまつ。 村人がとりおさえてわけをたずねると、男はいった。「まえに、忘れっぽかったときは、のんびりと、天地があるやらないやら、 気にもとめなかった。いま気がついてみとるどうだ。これまでの何十年間、つもりつもったくだらぬことを、 いっぺんに思いだしてしまったこと。成功したこと、失敗したこと、損したこと、得したこと・・・。 これから一生こんなものに悩まされてはかなわない。少しの間でいいからまた忘れたいものだ」。
(参考:奥平卓・大村益夫訳「老子・列子」):徳間書店